名古屋高等裁判所 昭和49年(ラ)165号 決定 1975年1月28日
抗告人 山田勉
抗告人 大正海上火災保険株式会社
右代表者代表取締役 平田秋夫
右代理人弁護士 片山主水
抗告人 池田昭隆
主文
原決定を取消す。
本件競落はこれを許さない。
抗告人山田勉、抗告人池田昭隆の各抗告を却下する。
理由
一、各抗告人は原決定を取消し更に相当の裁判を求める旨申立てた。
抗告人大正海上火災保険株式会社の抗告の理由は別紙のとおりである。
二、記録によれば、本件競売の目的物件は土地およびその地上建物であること、抗告人大正海上火災保険株式会社は本件競売の申立人であり土地については順位一番および二番の抵当権(被担保債権額合計五〇〇万円)を、建物については順位二番および三番の抵当権(土地の一番と建物の二番、土地の二番と建物の三番とが各共同抵当)を有すること、福山武吉は建物につき順位一番、土地につき順位三番の根抵当権(極度額三〇〇万円、共同抵当)を有すること、右抗告人の一番抵当権が設定された当時右土地はいわゆる更地であり、右地上建物はその後土地所有者によって建築されたものであること、原裁判所は鑑定人安間忠一に右土地建物の評価を命じ土地の価額を二六〇万円、建物の価額を四二〇万円とする評価を得て、土地の最低入札価額を二六四万円、建物の最低入札価額を四二六万円とし同時に最高価入札の申出をするものに限り入札を許可するものとし、入札人の入札価額は個々の物件の最低入札価額の割合により入札したものとみなすとの売却条件を定めて入札および競落期日公告をしたこと、そして、所定の入札期日において福山武吉が最高価入札人となり、その入札価額は七四三万円であったことが明らかである。
ところで、更地に一番抵当権が設定された後に土地所有者によって右地上に建物が建築された場合、土地および建物の一方または双方につき抵当権が実行され土地と建物が所有者を異にするに至ったとしても建物所有者のために法定地上権が発生しないことは明らかである(土地の一番抵当権が存続している限り、土地の後順位抵当権設定の時期と建物の建築時期との前後関係は右結論に影響を及ぼさないと解される)から、かゝる場合の土地および建物の競売においては、土地は建物所有者から土地利用権をもって対抗されることのないものとして、また建物は敷地利用権を伴わないものとして売却されるべきであり、最低競売価額もこの点を考慮して定められるべきものである。そしてこのことは、土地と建物がいわゆる同時競売の方法によって競売され、従って法定地上権発生の有無が現実には問題とならない場合においても、いわゆる一括競売の場合と異り土地と建物の個別の評価を前提として売却されるものである以上、これを別異に解すべき理由はない。
しかるに本件競売手続における前記鑑定人の評価は、本件土地と建物の関係が法定地上権の発生する場合にあたることを前提とし、土地についてはその更地価格にいわゆる建付減価を施した価格から法定地上権による減価分としてその四割を減じた金額をもって、また建物についてはその復成現価に右法定地上権相当分を加算した金額をもってそれぞれ評価額としていることが記録中の鑑定評価書によって明らかであるところ、原裁判所は右鑑定の結果をほぼそのまま採用し、土地建物の最低競売(入札)価額を前述のとおり定めてこれを本件競売(入札)期日の公告に記載したものと認められるのであって、本件競売(入札)期日の公告には土地の最低競売価額が本来の価値より四割低く記載され、その分だけ建物の最低競売価額が本来の価値より高く記載されたことになっている。そうとすれば本件競売(入札)期日の公告は適法な最低競売価額の記載を欠いたことになるといわなければならない。
そして、競売期日公告に存した右違法が本件競落価額に影響を及ぼしたことは明らかであり、かつ、前認定の右抗告人および福山武吉の各抵当権の順位、被担保債権額、極度額、競落価額等にてらすと、本件競落によって右抗告人は適正な最低競売価額が定められた場合に比しより少い満足しか得られない可能性の存することが認められるから、本件競落はこれを許すべきでなく、原裁判所としては、右違法を除去したうえ新たに競売期日を定めるべきである。
三、抗告人山田勉、抗告人池田昭隆の各抗告についてみるに、右抗告人らが競売法第三二条第二項において準用する民事訴訟法第六八〇条および競売法第二七条第四項の定める競落許可決定に対し即時抗告をなし得る者に該当することを認めるに足りる資料はなく、従って右抗告人らの抗告は申立権を有しない者の申立にかかるものとして不適法であるといわなければならない。
四、よって、抗告人大正海上火災保険株式会社の抗告に基づいて原決定を取消したうえ本件競落を許さないこととし、その余の抗告人らの抗告はこれを却下することとし、主文のとおり決定する。
(裁判長裁判官 綿引末男 裁判官 山内茂克 清水信之)
<以下省略>